さくらブックカフェ
1日中本を読んでいたい
推理小説 PR

舞台は「お店」。有栖川有栖『怪しい店』

※記事内に商品プロモーションを含む場合があります


今回も短編集。火村シリーズはやっぱり短編が好きだなあと思う。この短編集は数あるシリーズの中でも結構好きな方です。

今回は以下の5編を収録。

  • 古物の魔
  • 燈火堂の奇禍
  • ショーウィンドウを砕く
  • 潮騒理髪店
  • 怪しい店

どれも面白いけれど、私は「潮騒理髪店」と表題作の「怪しい店」が好き。

キーワードは「店」。全部趣向が違う

「潮騒理髪店」は、いつもの血なまぐさいミステリとはちょっと違います。

火村先生が過去に関わった事件の被告の出身地へ調査に向かいます。ひなびたところで、調査を終えたはいいものの、電車の時間まであと2時間以上もある。

その時間を潰すために入った理髪店で、ちょっとしたミステリに遭遇するわけです。

入ってみると今日が最後の営業日だという理髪店だったのですが、そこのマスターが物腰が柔らかくてものすごい紳士なのですよ。この人のキャラがとても好き。他の話にも出して欲しいくらいです。

で、この理髪店にくる前に、岬で若い女性が電車に向かってハンカチを振っていたこと、マスターが店にいる時に子供の声で「店の場所が分からない」と電話がかかってきて、探しにいったけれど子供は見当たらなかったことなど、ちょっとした「日常のミステリ」的なお話。

なんだかね、潮風が香ってくるようなさわやかなお話で。

火村先生は電話でそれをアリスに話しているんだけど、結末は・・・。たまにはこういうのもいいなと思います。

表題作の「怪しい店」は、「みみや」という変わった名前のお店が舞台です。

みみやとは、話を聞くお店。カウンセラー的なものかと思いきや、アドバイスなどは全くなしで、ただただ話を聞くだけ。

それなのにどうして女店主は殺されたのか。

裏の顔も暴かれつつ、だったら犯人はこの女店主を恨んでいる人だろうから、お客さんの中にいるんだろうと思いながら読んでいくと、「そうじゃない!」という火村先生の言葉が飛んでくるわけです。

えー、そうなのー。
これは最後のページまで楽しめますよ。

だって、犯人は多分あてられないもん。

本当に買いたければまた10日後に来て、という変わった古書店、燈火堂で起こる事件は、話を聞いただけで鮮やかに謎解きしちゃうしねえ。

「ショーウィンドウを砕く」は、読者には犯人が分かっているんだけど、それをどう証明するのかっていう刑事コロンボ的な趣向の話。

まさか、そこに証拠が・・・という驚きもあって。

どの短編もとても面白かった。大掛かりではないけれど、ちゃんとひねってあって、読者が考えながら読み勧められる。そして、謎を解いた後は「そうだったのか〜〜〜〜」って納得できる、面白さ。

これは何度読んでも、面白い短編集です。

ちなみに、「怪しい店」で火村先生が聞き込み先で女性に見せるちょっとした優しさとかがまたツボ。たまにくる、こういう優しさがたまらんのだ。